火星、そしてその先へ:宇宙でのヴァイサラの歴史

惑星の後ろから昇る太陽
宇宙空間
高度100km以上の世界から,
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産業計測
宇宙探査

大ヒットした宇宙映画など、宇宙は常に人々の心を捉えてきました。ヴァイサラの宇宙への関心は、SF(サイエンスフィクション)をはるかに超えた領域に足を踏み入れています。

ヴァイサラのセンサは現在、2016年に打ち上げられた欧州宇宙機関の「エクソマーズ(ExoMars)」ミッションに使用されています。このミッションでは、惑星環境を評価し、将来の探査への道を開くために宇宙船が火星に向けて打ち上げられました。これまで、火星探査ローバー「キュリオシティ(Curiosity)」によって、火星に関する数多くの画期的な発見がされています。ヴァイサラの技術が宇宙に進出したのはこれだけではありません。ヴァイサラには、1950年代から宇宙探査用のセンサを提供してきた長い歴史があります。

火星を目指す理由

エクソマーズは44回目の火星ミッションの試みとなります。1960年のソビエトによる最初のチャレンジは失敗に終わりましたが、それ以降、23のミッションで火星への到達が成功し、これらのいくつかでヴァイサラの技術が使用されています。たとえば、当社のセンサは火星探査ミッションで使用されたローバー「キュリオシティ」に搭載されました。2015年のこのミッションでは、火星に液状の水が存在するという最初の証拠が発見されました。火星などの惑星の調査を行う要因はさまざまです。宇宙探索によって、技術革新や国際協力が促進され、地球外に生命が存在するかどうかを知ることに近づきます。そして、自分の周りの世界を探索して理解したいという人間の生来の欲求を満たすことができます。

地球と似た惑星である火星の調査は特に重要で、地球が現在直面している気候変動などの課題の理解に役立つと期待されています。これは、ヴァイサラの長期にわたるパートナーであるフィンランド気象研究所(FMI)のレーダーおよび宇宙技術研究部門の責任者、Ari-Matti Harri氏によって強調されています。「単純化された、地球に似た動力学を持つ(火星の)大気を研究することで、水系、植生そして高湿度の影響により地球上で見逃している可能性のある事実について学べる可能性があります」と述べています。

火星探査ミッションでは、既に数多くの重要な発見がされています。現在、火星の気候が時間とともに劇的に変化していることは明らかになっていますが、火星での水の発見は、過去にまたはおそらく現在も、火星が生命を育む可能性を持っていることを強く示唆しています。火星上の放射線量は人類の健康への深刻な脅威にはならないことも判明しており、将来有人探査が実現する可能性があります。

火星探査をサポートするヴァイサラ

ヴァイサラとともに火星の謎を解き明かす1990年代以降、ヴァイサラの大気圧センサや湿度センサは、火星やその先の太陽系の探査ミッションに使用されています。そして、科学者が宇宙空間や火星のような惑星に、過去または現在、生命が存在するかを追求するため、大気に関する洞察を得られるように支援しています。

ヴァイサラの技術が宇宙探査に活用されている理由ヴァイサラの技術は非常に安定しており、これは宇宙での過酷な環境条件には不可欠です。ヴァイサラのセンサは、極度の高温や低温に耐えることができ、揺れや振動に対しても高い耐久性を発揮します。このような高レベルの安定性により、他の惑星の環境で実際に起こっている変化を正確に計測することが可能です。

Mars planet

 

スプートニクから土星へ

1950年代当初から宇宙探査に携わってきたことは、ヴァイサラの誇りです。1957年に、ヴァイサラはラジオセオドライトの周波数を変換することで、世界初の人工衛星であるスプートニク1号の追跡に貢献しました。この衛星の打ち上げは、宇宙探査の歴史においてきわめて重要な出来事になりました。それ以来、ヴァイサラは数多くの魅力的なミッションに携わっており、技術の提供を通じて宇宙の理解を進めるサポートを行っています。

火星探査ローバー「キュリオシティ」

ヴァイサラは、2011年に打ち上げられた火星探査ローバー「キュリオシティ」に圧力センサと湿度センサを提供しました。これは、ヴァイサラとFMIが1998年に最初に提携してから5回目の宇宙探査事業です。2015年には、キュリオシティは、火星に液体の水が存在する証拠を初めて発見し、これまでに火星で発見された最も重要な発見の一つとなりました。また、このミッションでは、生命の維持に必要な硫黄、窒素、酸素、リン、炭素などの化学元素が、火星にかつて存在していたことも発見されました。さらに、今後の有人探査の重要な情報となる、火星の放射線レベルの詳細が明らかになりました。

ローバーは今なお火星で運用されています。NASAが55年間にわたってデータ提供が可能であると言及したことで、当初はわずか2年間と予定されていたミッションが、無期限に延長されました。別のローバーの打ち上げは2020年に計画されています。

火星探査機「フェニックス(Phoenix)」

FMIは2007年に、アリゾナ大学主導の火星探査機「フェニックス」ミッションに、ヴァイサラのセンサをベースとする圧力計測機器を提供しました。このプロジェクトでは、火星の極地域への着陸に初めて成功し、火星のこの地域の気候と地質に関する数多くの手がかりが科学者に提供されました。「フェニックス」ミッションにより、火星の極に雪と氷が存在すること、また、地球上のいくつかの細菌の食物である過塩素酸塩の存在が発見されました。このような発見により、火星の気候と天気についてより詳細に理解することが可能となり、ある時点で火星に生命が存在していた可能性を示すさらなる証拠がもたらされました。

タイタン探査のための「カッシーニ(Cassini)」ミッション

ヴァイサラの技術により探査された惑星は火星だけではありません。ヴァイサラの圧力センサは、1997年に打ち上げられたNASAの「カッシーニ」ミッションに搭載されました。カッシーニは2005年に、土星の最大の衛星であり、太陽系外縁部の衛星であるタイタンに初めて着陸しました。このミッションは、これまでの宇宙打ち上げミッションのうち、最も壮大なミッションの1つで、2017年に終了しました。このミッションでは、エンケラドス(土星の別の衛星)に凍った水が存在すること、土星を軌道周回する新しい衛星が誕生する可能性があること、タイタンに地球と類似した地質学的過程が存在することなど、さまざまな興味深い発見がありました。この種の最初のミッションとしてカッシーニから学んだ教訓は、太陽系外縁部の今後の探査の試みに大きな影響を与えることでしょう。

 

火星探査ローバー。この画像の素材は NASA が提供しています。
火星探査ローバー。この画像の素材は NASA が提供しています。

 

宇宙でのライフサイエンス研究

1992年以来、コロラド大学のBioServe Space Technologiesの科学者は、ヴァイサラの二酸化炭素センサ、湿度センサ、温度センサを使用し、スペースシャトルの機内と国際宇宙ステーションの双方におけるライフサイエンスの実験を管理しています。これにより、植物の成長環境と動物の生息環境の調節、また、これらの環境が微小重力によってどのように影響を受けるかを研究することが可能となります。このような研究の結果は、火星への有人飛行や長距離宇宙探査を実現する場合、食料と、水や酸素などの生命維持に欠かせないものをスペースシャトルの機内で生産可能かどうかを判断するうえで不可欠です。長年にわたり、ヴァイサラのレガシーセンサはGMM220 シリーズのCO2モジュールや、HMP110 湿度プローブおよび温度プローブに置き換えられてきました。しかし、当初のセンサでも引き続き、妥当な計測値が得られます。これは、極端な条件でも安定性と耐久性が実現される証です。

あらゆる経験からの学び

ヴァイサラのセンサが使用されているミッションには、その目的地に到達していないものや、目標が達成されていないものもあります。1996年に、ヴァイサラの複数のセンサがロシアのミッションである「マルス 96(Mars96)」に採用されましたが、その打ち上げは失敗に終わりました。マルス96はその当時、非常に壮大なミッションであり、火星の表面、大気、内部構造の進化の歴史を評価することを目的としていました。プロジェクトで使用された技術はその後のさまざまなミッションに影響を与えました。その1つとして、地球以外の惑星の周回軌道に2番目に長く滞在し、継続して運用されている現役の宇宙探査機である「マーズエクスプレス(Mars Express)」があります。

1999年には、4つの圧力センサとヴァイサラ THERMOCAPがNASAの「マーズポーラーランダー(Mars Polar Lander)」に搭載されました。マーズポーラーランダーは、火星への到達は成功しましたが、着陸に失敗しました。このミッションのために開発された計測機器のいくつかは、後に火星探査機「フェニックス」ミッションに採用されました。2003年には、イギリスの「ビーグル2号(Beagle 2)」といわれるミッションで、ヴァイサラの圧力センサ、THERMOCAPおよびCapic回路が搭載されました。ビーグル2号は火星に到達しましたが、通信障害が発生しました。それ以降、この宇宙探査機の設計のさまざまな特徴が、他の数多くの潜在的な火星ミッションのために提案されています。

待ち受けている未来

過去50年にわたり、宇宙探査の取り組みをサポートしてきたことは、ヴァイサラの誇りです。2018年から2020年の間、「エクソマーズ」の第2段階を含め、多くの宇宙探査ミッションが計画されていますが、今後の宇宙科学はどのなるのでしょうか。このようなプロジェクトでは、最終的には火星への有人ミッションへの道を開き、永住地を作ったり、惑星の鉱物資源を採掘し、地球で使用したりするなど、さまざまな新しい可能性が広がることが期待されています。宇宙探査の未来がどうなるか予測はできませんが、ヴァイサラは、宇宙の謎の解明に貢献するために、今後も引き続き当社の知見やセンサ技術を提供します。

火星探査ローバー「パーサビアランス」、Copyright NASA/JPL-Caltech

地球外生命体は存在するのか

ヴァイサラは数十年にわたって宇宙に携わってきました。 ヴァイサラの技術は間もなく、フィンランド気象研究所との連携を通じて、また NASA の火星探査計画の新しい火星探査ローバー「パーサビアランス(Perseverance)」への導入を通じて、再び火星に着陸するでしょう。 高度な技術、イノベーション、そして世界を探検する好奇心が、設立当初からのヴァイサラの特長です。 ヴァイサラと宇宙探査に参加しましょう!