新型コロナウイルスの新規ワクチンを助ける実証済み温度モニタリング

新型コロナウイルスワクチンの温度モニタリング
Paul Daniel, Senior Regulatory Compliance Expert
ポール・ダニエル
シニア レギュラトリ・コンプライアンス・エキスパート
Published:
ライフサイエンス
現在発生している新型コロナウイルスのパンデミックにより、ワクチンの開発、保管、流通に大きな注目が集まっています。ワクチンの適切な保管と流通は、ウイルスを制圧し、生命を救うための重要な要素となります。保管温度が不適切な場合、温度の影響を受けやすい他の医薬品や生物学的製剤と同様に、ワクチンの品質、安全性、有効性が低下するおそれがあるためです。 

コールドチェーンにおけるリンク

温度の影響を受けやすい医薬品やワクチンの流通および保管に関する規制要件は、3 つの基本項目に分かれています。1つ目に、製品の有効性を維持するために適切な保管温度を見極めるため、安定性試験が要求されます。通常、安定性試験は周囲温度(15〜25°C)、冷蔵温度(2〜8°C)、冷凍温度(≤ -20°C)などの一般的な温度で行われます。これらの温度は、医薬品がサプライチェーンでさらされる条件と一致する傾向があります。安定性試験は、製品の使用期限を決定するために使用されます。
 
2つ目に、要求温度を維持できることが試験で証明された機器を使用して、製品を適切な温度で保管します。24 年前、バイオテクノロジーにおける私の最初の仕事は、バリデーションにより冷凍庫を認定することでした。バリデーションに合格した冷凍庫は、温度管理対象の医薬品を保管する能力があると見なされました。 
 
規制で要求される3つ目のステップは、緊急事態を検出、パフォーマンスを継続的に検証し、規制当局に対して規制遵守を証明するために保管環境のモニタリングを行うことです。こうした場面で、各種の温度管理環境のモニタリングという課題に対する自動化ソリューションとして、ヴァイサラのviewLinc環境モニタリングシステムがよく使用されています。これらの3つのステップ(安定性試験、認定、モニタリング)は、温度の影響を受けやすい医薬品やワクチンを製造および保管の際に保護するための基盤です。  

新型コロナウイルスの新規ワクチン

ワクチンの多くは、理想的な温度から(プラスまたはマイナス)数度の範囲内で保管する必要があります。弱毒化ウイルスまたは不活化ウイルスで作られた従来のワクチンは、通常、2〜8℃で冷蔵庫に保管する必要があります。無害なアデノウイルスにDNA鎖を組み込んで使用している、アストラゼネカ社やジョンソン・エンド・ジョンソン社のワクチンがこれに当てはまります。しかし、新型コロナウイルスのために開発された最初の2つのワクチンは、mRNA(メッセンジャーリボ核酸)を使用する新しいタイプのワクチン技術を利用しています。mRNAは1961年から研究されており、同年にNatureとThe Journal of Molecular Biologyの両誌で発表されました。ファイザー社とモデルナ社の新型コロナウイルスワクチンが、広く使用が承認された最初のmRNAベースのワクチンとなりました。   
 
2018年、Nature誌に「mRNA vaccines — a new era in vaccinology(mRNA ワクチン-ワクチン学の新時代)」が発表されました。論文では、mRNAを動物に注入すると、その動物の細胞により免疫反応を引き起こす望ましいタンパク質が生成されることが示されました。当初、mRNAワクチンは劣化しやすいことが知られており、免疫系によって破壊されることがよくありました。しかし、2005年、脂質エンベロープによりmRNA分子を安定化させる方法が研究者たちにより提案されました。mRNAワクチンの研究は新型コロナウイルスのパンデミックまでゆっくりと進められていましたが、新型コロナウイルスの出現により、この研究にこれまでにないほど労力が注ぎ込まれ、効果的なソリューションが迅速に生み出されました。 

従来のワクチンは、抗原(通常は不活化または弱毒化したウイルス)を注入します。mRNAワクチンは、mRNAの指令を注入して抗原の一部を構築し、ワクチン接種を受けた人の細胞で必要な抗原タンパク質が生成されます。抗原タンパク質が体内に入ると、免疫系によりウイルス感染に対する免疫反応の重要な要素である抗体の生成が可能になります。mRNAワクチンはこのようにして実際のウイルスからの保護をもたらします。   

ワクチン保管のソリューション

小さな脂質エンベロープに格納することでmRNAワクチンを安定化させていますが、mRNA分子は依然として比較的繊細です。新型コロナウイルスのmRNAワクチンが従来のワクチンよりもはるかに低い温度で保管する必要があるのはこのためです。モデルナ社のワクチンは-15°Cから-25°Cの間で保管しますが、ファイザー社のワクチンは-60°Cから-80°Cの超低温で保管する必要があります。温度が極端であるほど維持が難しくなり、環境を敏感かつ正確にモニタリングすることがより重要になります。   
 
比較的安定した標準的なワクチンであっても、ワクチンの流通は複雑です。温度の影響を受けやすい製品を製造業者から診療所まで流通させる手法は、コールドチェーンと呼ばれます。コールドチェーンには、製品を倉庫などの保管場所に保持する静的保管用途があります。 また、コールドチェーンには、温度管理されたトラックやその他の輸送コンテナなどで製品を輸送する動的保管用途もあります。静的および動的のいずれの保管方法にも、モニタリングに関する固有の課題があります。 

ヴァイサラviewLinc環境モニタリングシステムは、倉庫、発送センター、薬局などのコールドチェーンの静的用途に世界中で使用されています。このシステムは、環境条件をモニタリングし、ワクチンの時間、温度、場所に関して不変なデータを収集して保護します。

重要なコールドチェーンには信頼性の高いモニタリングが必要

新型コロナウイルスのワクチンが製造業者から出荷されて一般の人々に投与されるようになった現在、グローバルなコールドチェーン用途の静的リンクと動的リンクの両方を正確にモニタリングすることに、これまで以上に厳しい目が向けられています。ヴァイサラは80 年以上にわたって計測ソリューションを提供してきました。正確かつ安定した計測で信頼を得ている当社のセンサは現在、火星探査プログラムや世界大手の製薬会社やバイオテクノロジーメーカーで使用されています。新規ワクチンの安全な流通は、地球上でこれまで直面した中で最も複雑なロジスティクス上の課題の1つです。ヴァイサラは、製造業者、流通業者、薬局が保管環境や生産環境をモニタリングできるよう支援することで、新型コロナウイルスワクチンの流通をサポートできることを誇りに思っています。