データセンターのエネルギーコストから熱に関する課題を排除
気候変動がもたらし得る多大な損害の可能性に直面し、各国や組織では温室効果ガス(GHG)の排出量の削減対策を早急に必要としています。その最も明白な解決策の1つはエネルギー効率です。そのため、大量のエネルギーを消費する業種分野では詳細な調査が進行しています。以下では、エネルギーが大量に消費されるデータセンターにおいて冷却効率をどうやって効率化できるかについてご紹介します。また、正確な計測によって実現される大幅なコスト削減と環境パフォーマンスの向上についてもご説明します。
背景
グラスゴーで開催されたCOP26 気候交渉の代表者は、憂慮すべき知らせを携えて帰国することとなりました。GHG排出量の削減に対して各国が定める貢献(NDC)の目標値を合計しても、地球温暖化を産業革命前の水準から+1.5°Cまでに抑えるには不十分であるいうことです。そのため、国や組織はネットゼロの目標を達成するための緊急策を模索しています。
推定によると、2020年には世界中の1,800万か所のデータセンターで200~250TWhが使用されており(1)、これは世界全体の電力消費量の約1%に相当します。データセンターのこの高い電力要件は、ITインフラストラクチャ(平均で約60%)と関連する冷却システムや空調システム(平均で約40%)によって押し上げられています。データセンターでエネルギー効率を向上させるために現時点で行われているのは、データトラフィックの増加をエネルギー使用に反映させないという方法です。IT機器の効率は徐々に高まっていますが、エネルギー消費を最小限に抑えるためには、冷却システムも厳密に監視して制御する必要があります。エネルギーコストが高騰するなか、データセンターにおけるエネルギー効率の最適化には、環境面と財務面の両方の要因が関わってきます。
現在、データセンターの大半は米国に置かれており、その数は2,670か所に上ります。それから英国が452か所、ドイツが443か所と続き、その他の主な国には、中国、オランダ、オーストラリア、カナダ、フランス、日本があります(2)。
データセンターやその他のIT関連活動によるエネルギーコストについては、政府がエネルギー供給の回復力とネットゼロに向けた進展を求めている状況で、より厳しい規制措置に対応する必要に迫られています。シンガポールを例にすると、データセンターは電力消費量の約7%を占めており、新しいデータセンターに対する猶予が解除されたところです(3)。将来的には、既存のデータセンターと新規のデータセンターでさらなる効率化を進める必要があります。アイルランドでは、最近のレポートによると、2028年には総需要の29%をデータセンターが占めると推定されています(4)。英国においては、データセンターが英国の電力消費量の12 以上を占めるという予測をコンサルタント会社のCarbon3ITが立てています(5)。
暗号通貨は、莫大なエネルギー需要を発生させています。たとえば、ビットコインのマイニングが新しい大規模データセンターでさらに活発に行われていますが、その一部では化石燃料による安価なエネルギーが使用されています。暗号通貨による環境への影響について理解が深まりつつある結果として、この分野でエネルギー効率を高めるにあたってのリスクと課題が生じています。比較してみると、ビットコインのマイニングだけで、ノルウェー、アルゼンチン、オランダ、パキスタンなどの国々よりも多くのエネルギーが使用されています(6、7)。
近年、データセンターでの需要の拡大により、非効率的な旧式の施設は閉鎖され、効率性に優れた巨大データセンターが新たに建設されています。この状況は、エネルギー消費の伸び率を抑制することに貢献しています。しかし、クラウドに保存されるデータは増加し、AI、機械学習、自動運転車のようなITを活用したリソースの開発が広がるなかで、エネルギー需要が大幅に増加するという見込みが共通の認識となっています。
冷却管理の重要性
冷却と空調(A/C)はエネルギー使用量の約40%を占めており、ITとは別のこのインフラストラクチャを可能な限り効率的に管理することの必要性は明らかです。ただ、IT機器が正しく機能するためにも、温度と湿度の正確な制御は欠かせません。
「多くの最新式施設では、99.999%の稼働時間が想定されています。これは、年間のダウンタイムがわずか数分であるということです。ITインフラストラクチャで扱うデータとプロセスには重要性と価値が伴うため、このような非常に高いレベルのパフォーマンスが必要とされます」と業界エキスパートであるヴァイサラのAnu Kätkäは述べています。
「湿度が低いと静電気が発生するリスクが高まり、湿度が高いと結露する可能性があります。温度が不適切であったり変動したりすると、ITデバイスの損傷や寿命の短縮につながります。したがって、監視システムや制御システムを、長期的に安定し、正確性と信頼性に優れたセンサによって支えることが非常に重要です。ヴァイサラのデバイスは、最高±0.1°Cの温度計測精度と、データセンターに最適な±0.8%RHまでの湿度計測精度を備えています。」
ヴァイサラのあるお客様は、わずか1°Cの過冷却によって年間の冷却エネルギーコストが最大8.5%増加する可能性があると推定しており、正確なセンサの重要性を強調しています。
「この視点で考えてみると、10年分のエネルギーコスト増加量は、小規模なデータセンターでは40万ユーロ以上、大規模なデータセンターの場合 400万ユーロを超えることになります」とKätkäは付け加えます。
データセンター向けのセンサ製品を幅広く揃えるヴァイサラは、気象観測装置の世界有数のメーカーでもあります。多くのデータセンターが、屋外環境を計測することで屋内条件の最適化を推進し、エネルギー効率を向上させるという経済性を取り入れているなかで、これは重要な事実です。
効果的なプロセス計測の高まるニーズへの対応
従来、データセンターでは空冷が採用されていますが、ラック密度の増加に応じて、より効果的な冷却システムに対する需要が高まっています。そこで、熱の除去において非常に効果的である液体冷却ソリューションに人気を集まりつつあります。こうした傾向に対応するため、ヴァイサラは冷却液や加熱液の温度を計測するための新しい高品質センサを開発しました。
「新しいヴァイサラ TMI110は液漬式の温度変換器です。校正証明書が付属しており、精度±0.1°Cの優れた応答性を提供します。この製品がポートフォリオに加わるメリットとして、お客様は、室内やダクト用の気温、湿度、差圧センサ、屋外気象用の気象センサに加えて、冷却システム用の浸漬温度センサなど、重要性の高い各種センサを1つのサプライヤーから調達できるようになります」と、Anu Kätkäは結論付けています。
概要
エネルギーが効率化されていないことによるエネルギー面、環境面、および経済面のコストと比較して、高精度の安定した計測システムへの投資は極めて小さいものです。そして、宇宙探査ミッションという最も要求の厳しい条件でヴァイサラの計測技術が使用されているように、データセンターの管理者によって、この地球上の最も重要な環境のために同じソリューションが選択されています。
高精度の安定したセンサを使用して換気と冷却のシステムを厳密に制御することで、データセンターの管理者は、エネルギーコストの節約や二酸化炭素排出量の削減を実現し、GHG排出削減の要求が高まるなかで自らの分野の将来性を確保できます。
参考資料