さまざまなセンサ技術
露点計測のための最も一般的なセンサは、鏡面冷却式センサ、酸化アルミニウムセンサ、高分子センサの3種類あります。
圧縮空気システムで常に問題になるのは、水分です。露点センサが最適に機能していれば、誤動作や非効率的な動作、最終製品の品質低下を回避するための対策を講じることができます。しかし、圧縮空気システムの露点計測には多くの課題があり、誤計測、安定性の低下、さらにはセンサの故障が発生する可能性があります。
圧縮空気中の露点センサに関する最も一般的な課題は、以下に関するものです。
これらの課題について理解を深めるには、 まず最も一般的なセンサ技術の性能の違いを知っておくことからはじめましょう。
センサ技術 | 広範な計測範囲 | 高い精度 | ほこりや汚れに対する耐性 | 結露に対する耐性 | 長期安定性 | 手頃な価格 |
鏡面冷却式 | +++ | +++ | ||||
酸化アルミニウム静電容量式 | ++ | ++ | ++ | + | + | ++ |
高分子静電容量式 | ++ | ++ | +++ | +++ | +++ | ++ |
露点計測のための最も一般的なセンサは、鏡面冷却式センサ、酸化アルミニウムセンサ、高分子センサの3種類あります。
鏡面冷却技術は、広範囲の露点で最高の精度を提供します。この技術の動作原理は、露点の定義である結露の発生まで、一定量の空気を冷却することです。ガスサンプルは、クーラーによって冷却された金属製の鏡の表面を通過します。次に鏡面に光を照射し、光学センサで反射光の量を計測します。鏡面に結露が発生し始める温度(つまり、露点に達した温度)まで鏡が冷却されると、鏡が反射する光の量が減少したことが光学センサによって検出されます。それから、冷却速度が鏡の温度センサによって慎重に調整されます。蒸発の速度と結露の速度が平衡状態に達すると、鏡の温度が露点に等しくなります。このようなタイプのセンサは、鏡面冷却の光学計測原理を利用するため、鏡面上の汚れ、油、ほこりなどの汚染物質の存在に非常に敏感です。また、正確な鏡面冷却式デバイスは高価になる傾向があり、絶対的な精度が不可欠で、頻繁なメンテナンスとクリーニングを実行できる場合によく使用されます。
次は、酸化アルミニウム技術を使用した酸化アルミニウム静電容量式センサです。これは、工業プロセスにおける非常に低い露点の計測用です。材料の種類はさまざまですが、センサの構造と動作原理は同じです。この静電容量式センサは、基板のベースレイヤー、下部電極、吸湿性酸化アルミニウムの中間層、および上部電 極をすべて挟んだ層状の構造になってい ます。上下の電極間の静電容量は、酸化アルミニウム層(コンデンサの誘電体)によって吸収される水蒸気の量に基づいて 変化するため、露点の関数になります。酸化アルミニウムセンサは、-100°C以下で 優れた低露点計測精度を備えています。しかし、これよりも高い範囲で露点が変化す る冷媒乾燥システムなどのプロセスでは、 長期安定性が低下する傾向があります。また、高湿度や結露によってすぐに故障してしまう恐れもあります。このように出力計測値がドリフトするため、頻繁な校正が必要となります。ただ、校正は通常、メーカー の校正室でのみ行われます。
最後に紹介するセンサの種類は、高分子静電容量式センサです。このセンサは、 広い湿度範囲で正確な計測を行い、長期 安定性にも非常に優れています。ヴァイサラが初の露点計測用高分子センサを発売した1997年1月以来、DRYCAP® 技術はさまざまな工業および気象分野の用途に使用されてきました。現在では、高分子セ ンサを低露点用途でも利用できるようになっています。静電容量式センサの動作原理は酸化アルミニウムセンサと似ていますが、いくつかの重要な違いがあります。明らかな違いとして吸湿層の材料がありますが(高分子素材と酸化アルミニウ ム)、高分子静電容量式センサは抵抗温 度センサと組み合わされています。高分子センサは計測ガス中の水分子の量に関係する湿度を相対湿度(RH)で計測し、温度センサでは高分子センサの温度を計測します。これらの2つの値から、変換器の電子回路部のマイクロプロセッサーが露点温度を計算します。ヴァイサラの高分子センサでは、自動補正機能によって非 常に乾燥した条件で正確な露点値を計測します。相対湿度がゼロに近づくと、湿度の比較的小さな変化で露点の計測値が非 常に大きく変化します。たとえば、室温での-40°Cと-50°Cの露点は、それぞれ相対湿度0.8%と0.3%に相当します。高分子センサの一般的な湿度の精度 (±2%RH)では、±2°Cの露点精度を達成できるのは露点-9°Cまでです。ここで自動補正を使用すると、この±2ºCの精度が露点-80°Cまで広がります。
自動補正中、センサは加温され、加温終了後にセンサが自然に冷却される間、湿度と温度の計測データが集められます。このデータは分析され、湿度センサの計測値を調整するために使用されます。
この際に正確な校正を行うには、センサ の出力が、温度に対して変化する相対湿度 (RH)と等しいということがポイントに なります。よく知られているこの物理的依存性により、0%RHでの低湿度の計測値が正しいかどうかを自動補正で評価できます。こうして起こりうるドリフトはマイク ロプロセッサーによって自動的に調整されます。その結果、露点が低くても±2ºCの高い精度が得られます。
適切な高分子材料と長年のテストの成果である高分子技術と、インテリジェントな電子回路部を組み合わせることで、最小限のメンテナンスで高性能な露点計測が実現されています。
周囲の露点に順応した露点プローブを-40°Cの圧縮空気ラインに設置する場合、従来のセンサがこの-40°Cの値で安定するのに必要な応答時間は、平衡状態になるまで数時間から数日間に及ぶことも珍しくありません。この原因は、他の静電容量式センサ技術では、乾 燥プロセスエアを使用してセンサの吸湿(吸水)層を受動的に乾燥させるとい う、低速のプロセスに依存しなければな らないためです。
高速な応答速度を確保するには、パー ジ機能を備えた高分子静電容量式セ ンサを使用することです。ヴァイサラの DRYCAP® センサは、10°C以上の露点 の低下を感知するとすぐに反応し、セン サに熱を加えるセンサパージを開始します。これにより、水分子が高分子層から発散されてセンサが乾燥し、5〜6分以内に安定した計測値を得ることができます。
上のグラフは、2台のヴァイサラ DRYCAP® DMT242 露点変換器を使用した進行中のテストから作成したものです。露点変換器は7年前に圧縮空気ラインに設置し、それ以来再校正や調整は行われていません。空気ラインの状態は計器用エアを表しており、x軸は年数、y軸は定期的なチェックにおける基準値との差を表します。
露点に関して圧縮空気の技術者から受け る最も多い質問は、「同じ設置ポイント に複数の露点計測機器を設置していますが、計測値がすべて異なります。どれ が正しいかを知るにはどうすればよいですか」というものです。
一般的に、この質問に答えるのは非常に 困難です。計測値には、プロセス条件、 設置方法、信号の読み取り方法、設置したセンサの精度、前回の校正からの経過時間など、多くの要因が影響を与えるからです。
すべての露点センサでドリフトが発生す ることは広く知られていますが、重要な問題はその程度と速度です。
自動補正機能を備えた高品質の高分子セ ンサでは、極めて高い精度の計測値が得られます。自動補正が、安定した環境では1時間に1回、条件が変化する環境ではより頻繁に機能し、センサのドリフトを最小限に抑えるためです。その結果、何年間もメンテナンスが不要で、信頼性の高い計測値を得ることができます。
ヴァイサラ DRYCAP® 高分子静電容量式センサの構造
圧縮空気システムの通常の運用では、水しぶきや水滴への暴露が発生する可能性 があります。このような現象が発生しても露点センサが故障せずに回復できるかどうかは、取り付けるセンサの種類によって決まります。
酸化アルミニウムセンサの場合、水があると酸化が進み、多孔質酸化物層 の構造が変化してしまいます。その結果、計測が不正確になり、センサのドリフトが発生します。一方、高分子センサは元来備えている不活性特性により、水に耐性があります。自動補正機能を備えた高分子センサが水しぶきを感知した場合、通常の乾燥空気がライ ンに戻ると自動補正サイクルが開始され、数分で通常の動作値に戻ります。
センサ技術によっては、圧縮空気に浮遊 している微量の圧縮機油が致命的とな る可能性があります。幸い、ヴァイサラ DRYCAP® の高分子センサの構造は、水分子のみに対してのみ選択的な特別設 計になっています。この特性は特徴的な孔径を持った上部電極によって実現されます。特別な設計により、水蒸気のみが通過できる孔径を備え、油のようなそれよりはるかに大きい炭化水素分子は孔を通過できないため、油に対する交差感度 はなくなります。設計上、鏡面冷却の性能を維持するためには、冷却鏡の光学面と反射面を清潔に保つ必要があります。したがって、油による汚染に対する耐性は最小限しか備えていません。
自動補正機能