オーストラリアの森林火災対策に活用される気象観測データ Australia Published: Feb 21, 2019 ヴァイサラのMW32 モバイルサウンディングシステムは、オーストラリアのニューサウスウェールズ州における消防活動で森林火災の様子をより的確に把握するために活用され、人命や財産の保護に役立てられています。 高温で乾燥した気候が多いオーストラリアでは、長い歴史の中で何度も森林火災に見舞われてきました。今日では気候変動により、森林火災の頻度と深刻さはますます増しています。毎年、森林火災が原因で広範囲にわたる物的被害が発生しており、命が失われることも少なくありません。2016年だけでも、72,000ヘクタールの森林が火災で焼失しました。 ニューサウスウェールズ州では、ニューサウスウェールズ州地方消防局(以下、NSW RFS)がこうした森林火災に立ち向かっています。「わずかに件数が多いシーズンでしたが、並外れて忙しいシーズンだとは考えていませんでした。きわめて標準的なレベルです。9月(2017年)は、108件の制御不能となった森林火災に対応していましたが、まだ春先でありこれからです。」と、NSW RFSの火災性状分析官であるDavid Field氏は述べています。 気象観測の隙間を埋める こうした火災に効果的に対処するために、NSW RFSは火災の発生場所の気象状況を知る必要があります。火災の発生場所の気象状況を知ることで、火災の性状、延焼の仕方について、消防士が正確に予測できるようになります。そこで、NSW RFSは州内の火災発生現場に簡単に移動させることができるサウンディングシステムを調達することを決定しました。 「低木林地や草地で発生する火災は、多くの場合、ほとんどが大規模な人口密集地にある気象観測ネットワークではカバーできません。オーストラリアは非常に広大であり、少数の人口が広い地域に散らばっています。私たちは観測ネットワーク間に生じる隙間に対処する必要がありました。」と、Field氏は指摘しています。 ただ、こうした気象観測の隙間を埋めるだけで終わる話ではなく、重大な現象に関連した情報の取得範囲を空間的にも時間的にも拡大して、火災地域の気象に関する詳細な情報を取得することも必要でした。これにより、火災に対処している人々が、数値的気象予報の裏付けや、風速の増加や相対湿度の低下などの不一致を検出するなど、発生地域の気象状況についてより正確な情報を得られるようになり、消火活動の成果が向上します。結果として、火災に対処している人々への早期警報が可能になります。また、局所観測により延焼モデリングの精度を向上させることもできます。 火災が引き起こす雷雨と竜巻 移動式気象ステーションに投資する最新かつ重要な理由として、火災の真上に形成され、火災旋風を引き起こす雷雨の現象があります。この雷雨は、火災積乱雲(pyro-cb)としても知られています。この現象は稀にしか発生しませんが非常に危険です。 「火災積乱雲が発生すると、風向きが不確実になります。ガストフロント、ダウンバースト、冷気外出流などが、予測できない方法で火災のさまざまな部分に影響を与えています。この予測ができないという点は、消防士だけでなく、一般の人々にとっても非常に危険な問題です。」 最悪の場合、火災積乱雲は竜巻を発生させることが以前から知られています。この竜巻により、すでに危険な状況がさらに壊滅的な状態になります。 高層気象観測値を使用して、火災による上昇気流と大気間の相互作用を常時監視することにより、火災が原因となって火災旋風が形成されているかどうかを識別することができます。 サウンディング機器にとって厳しい環境 NSW RFSが選んだサウンディング機器はヴァイサラのMW32 MARWIN® サウンディングシステムでした。 「私たちは政府機関であるため、堅牢性、携帯性、さまざまな無線周波数で使用できる柔軟性といった基準を事前に設定して一般競争入札方式を実施しました。そうして決まったのがMW32でした。」 NSW RFSは2016年初めに4台のMW32を調達したため、シーズンを通して使用し始めたのは2016年から2017年の春から秋にかけてのことでした。それでも、すでに50回を超える活用事例があり、消防士が火災延焼予測をし、地域住民に潜在的な危険を事前に警告することに役立っています。 「非常に厳しい環境下でMW32を使用しています。前回観測を実施したときは、平均風速60㎞/h、45°Cの風が1日中吹いていており、非常に埃の多い環境でした。 「この機器はこうした状況にも十分に耐え、使用方法もシンプルで簡単なので、非常に助かっています。唯一改善点を挙げるなら、機器はトラックの荷台に投げ込まれたり、ぞんざいに扱われたりすることもあるので、ハードケースがあると良いと思います。」と、Field氏は述べました。 ニューサウスウェールズ州地方消防局 ニューサウスウェールズ州地方消防局(NSW RFS)は世界最大のボランティア消防隊であり、74,000人を超えるボランティア隊員で構成されています。消防活動の範囲は800,630平方キロメートルに及び、これはオーストラリア国土のおよそ10.4%にあたります。 消防局の隊員は、森林火災、住宅や建築物の火災、嵐による被害、捜索救助、森林火災の延焼阻止など、幅広い災害や活動を対象に出動します。 2015年から2016年における消防局の隊員の出動件数は、州全体で23,000件を超えており、そのうち7,500件以上が森林火災に関する出動です。 MW32 MARWIN® サウンディングシステム ヴァイサラ MW32 MARWIN® サウンディングシステムは、風向風速、気圧、温度、湿度の大気プロファイルをご提供します。このデータは、より正確な予測を得るために最新の観測値を必要とする数値的気象予報モデルの入力値として利用できます。 本システムは、自己誘導型メニュー方式で操作が簡単であり、手袋を装着したまま操作、組立、分解の作業ができます。MW32は、過酷な環境における要求の厳しい用途と悪路での輸送などを考慮して設計されています。本システムは、振動、機能的衝撃、運送時の落下に関するMIL-STD-810Gだけでなく、低温/高温、温度衝撃、砂塵、風雨、湿度、塩霧、高度に関するMIL-STD-810Gにも準拠しています。