アプリケーションノート
赤外線センサ技術と 一般空調設備CO2計測精度への影響
最新式の換気システムでは、外気処理に要するエネルギー量を最小にするため、屋内の空気を再循環させて います。室内空気質の指示計としてCO2センサを使用することで、エネルギー消費を最適化しつつ、新鮮な外 気を建物の利用者に提供できます。
エネルギー効率に関する規則が厳格化 するのに伴い、CO2センサに対する要求 も厳しくなってきました。室内空気質の 向上における先駆者といえるのが米国 カリフォルニア州です。同州の建築基準 法では、CO2センサの性能基準を「CO2 センサは、工場で校正済みの状態また は始動時に校正した状態で、海抜ゼロ 地点および気温25°Cで濃度600~ 1,000ppmのCO2を測定した際の精度 が±75ppmの範囲にあり、かつ校正が 必要な間隔は5年に1度、またはそれ以上 に長い期間であることが製造業者によっ て保証されていること」と定めています。 これは、すべてのセンサが期待通りの性 能を備えているとは限らないため、セン サを選ぶ際に仕様を慎重にチェックする ことの重要性を示しています。
赤外線CO2センサの動作原理
非分散型赤外線吸収法(NDIR)センサ としても知られている赤外線センサは、一般空調設備向けのCO2センサ市場で 大きなシェアを占めていますが、これに は明白な理由があります。それは、感度 が非常に高く、選択性に富み、安定してい るためです。赤外線センサは商品寿命が 長く、環境変化の影響を受けません。そ の上、この技術につきものだった、比較 的高価で小型化が難しいという課題が 克服されました。
CO2には赤外領域の波長4.26μmの光 を吸収する特性があります。CO2を含む 気体に赤外線放射を透過させると、CO2 分子は赤外線放射の一部を吸収します。 気体を透過する赤外線放射の量は、そこ に含まれるCO2の濃度に依存します。赤 外線光源、検出器、光路が組み込まれた 赤外線センサは、この現象を数値化しま す(図1参照)。

図1. 赤外検出器がCO2分子の赤外線吸収を検出
A: 赤外線光源 B: 光路 C: 検出器
さまざまな赤外線CO2センサと その性能の違い
一般空調設備向けCO2センサは、設置後 長期間にわたって、時には製品寿命が尽 きるまで、メンテナンスがほとんど、また はまったく不要で動作するのが一般的で す。そのため、信頼性の高い正確な計測 を長期にわたって実行できるセンサを選 ぶことが重要になります。あらゆる赤外 線CO2センサは同じ計測原理で動いて いますが、技術的ソリューションと計測性 能には大きな差異があります。経験を積 んだ一般空調設備の専門家は、さまざま な種類のセンサとその性能の違いにつ いて知見が得られます。
単光源単一波長方式センサ
単光源単一波長方式センサは、赤外線光 源、測定チャンバー、検出器からなる単純 な構造をしています(図2)。

図2. 単光源単一波長方式センサ
このタイプのセンサの課題は、かなり長 期にわたるドリフトです。CO2センサの典 型的な赤外線光源である小型白熱電球 の光強度は、時間の経過とともに変化し ます。また、塵や埃がセンサ表面に付着し ます。センサはこうした変化をCO2濃度 の変化であると誤って解釈し、長い目で 見ると信頼性に欠ける計測となってしま います。
そうした特有の不安定性を補うため、一 部のメーカーは自動バックグラウンド 校正方式を採用しています。センサが任 意の期間(通常は数日)内における最小 CO2指示値を記録し、この最小指示値が 新鮮な外気(400ppmのCO2)に相当 するものと見なして、指示値を再調整し ます。残念なことに、これは常に適切とは いえません。なぜなら、室内のCO2レベ ルは建物の居住パターンによって影響 を受けるためです。病院、高齢者ホーム、 住宅、オフィスなどの施設は居住状態が 一日中続き、CO2の最低レベルは600~ 800ppmになります。不完全な再調整 を繰り返すと誤ったCO2指示値につなが り、換気が不十分になるとともに室内空 気質が低下します。さらに、新築の建物 においては、コンクリートの炭酸化によ り、CO2濃度が400ppmをはるかに下 回ることもあるため、自動バックグラウン ド補正はこの場合も機能しません。
ニ光源単一波長方式センサ
ニ光源単一波長方式センサ(図3)には、 赤外線光源のドリフトを補正するため補 助的な赤外線光源が付いています。この 補助光源はほとんど始動しないため、劣 化しないというのがメーカーの説明で す。この方式では、センサ構造が不必要に 複雑になり、補助的な赤外線光源によっ て故障し得る箇所が増えてしまいます。加えて、塵や埃がセンサの周囲に均等に 付着することはまずありません。結論と して、このセンサ構造は比較的信頼性が 低いといえます。

図3. 2光源単一波長方式センサの構造
単光源ニ波長方式センサ
単光源ニ波長方式センサは、単光源単 一波長方式センサやニ光源単一波長方 式センサとは異なり、性能に影響を与え るドリフトの問題がありません。一般に 高価なフィルタ・ホイール分析器に用い られるこの技術は、吸収波長だけでな く、吸収の影響を受けない参照波長でも 計測を行います。 ヴァイサラは、単光源ニ波長方式センサ をコンパクトな構造にまとめ、産業用変 換器に利用できるようにしました。電気 的波長可変FPI(ファブリー・ペロー干渉 計)フィルタを検出器の前面に設置する ことで参照波長を計測します(図4)。

図4. 検出器の前面にFPIフィルタを取り付けた単光 源ニ波長方式センサ
微小機械FPIフィルタを電気的に調整す ることにより、CO2計測波長と参照波長 を切り替えます。参照測定によって赤外 線光源の強度の変化と光路の塵の蓄積 が補正されるため、複雑な補正アルゴリ ズムは不要になります。
簡素でコスト効率の良い単光源ニ波長方 式センサは、長期にわたり極めて安定性が 高く、メンテナンスも最小限で済みます。
一般空調設備向け CO2 センサを 選ぶ際にチェックすべき 基本的な性能基準
- 精度:センサの指示値が真の値に どれだけ近いか
- 計測範囲:その機器が読み取り可能 な計測値の限界
- 感度:検出可能な最低のCO2濃度、 および検出可能な最低濃度の変更
- 選択性:混合気体の中でCO2のみを 特定するセンサの能力
- 応答時間:センサがCO2濃度の 変化に反応するまでにかかる時間
- 安定性:安定して再現可能な CO2測定値を得られる期間
- 消費電力:総エネルギー使用量 だけでなく、機器の自己発熱が 計測精度に与える影響も重要
- メンテナンスの容易さ:使い勝手に 加えて、規定の校正間隔と利用可能 な校正オプションについても確認
図5は、参照測定を行うセンサ(単光源ニ 波長方式)と、行わないセンサ(単光源単 一波長方式)の長期安定性の違いを示し ています。単光源単一波長方式センサで 一般的に見られるドリフトは、赤外線光 源の強度低下によるもので、CO2レベル の表示が高くなりすぎています。しかし、 センサのドリフトにより、指示値が低くな りすぎる場合もあります。
図5. 単光源単一波長方式センサ(参照測定を行わないセンサ)と比較した場合のヴァイサラ単光源ニ波長方式 センサ(参照測定を行うセンサ)の長期安定性

小型白熱電球
大半の赤外線CO2センサは、赤外線光源 として小型白熱電球を使用していますが (図6)、これはセンサにとって理想的な 光源ではありません。まず、電球一つひと つの初期の光強度にばらつきが大きいため、導入が困難です。第2に、細フィラメ ントからタングステンが蒸発しガラスの 表面に付着するため電球の壁が黒ずむ という、特有の不安定性があります。フィ ラメントが薄くなるにつれ、出力強度は 次第に低下します。参照測定を行わない センサ(単光源単一波長方式およびニ光 源単一波長方式)の長期安定性は大幅に 損なわれます(図5)。その他の短所として は、消費電力が比較的多いことと、製品寿 命が限られることが挙げられます。

図6. 小型白熱電球
Microglow
次世代の赤外線技術であるMicroglow は、従来の赤外線光源に影響を与えてい た数々の課題を解決します。Microglow (図7)の主な利点は、赤外線光源の寿命 延長、消費電力の削減、品質の均等性、大 量生産における優れた製造性です。 白熱電球をMicroglow技術に置き換え ることで、センサの動作寿命が50%伸びる一方、消費電力は従来の赤外線光源 のわずか25%で済みます。

図7. ヴァイサラが特許を有するシリコンMEMSエ ミッタ赤外線光源、Microglow
白熱電球から発生する大量の熱は、多重 パラメータ変換器のCO2測定だけでな く、湿度温度測定の適用性にも制約を与 えます。温度に依存するパラメータであ る湿度は、熱源の近くでは正確に測定で きません。Microglowの特質である低 消費電力により、CO2計測と同じ変換器 筐体で高品質な湿度計測が行え、センサ のウォームアップ時間も短縮できます。
Microglowの光強度は、その製品寿命 全体にわたり、非常に安定しています(図 8)。その他の利点としては、応答時間の 短さと、チップを直接コンポーネント基 盤に自動組立できるという優れた製造性 が挙げられます。

図8. Microglowの優れた長期安定性